今回インタビューするのは、石川県鳳珠郡能登町小木で「カネイシ」を経営されている新谷伸一さん。
イカの町である小木漁港から徒歩10秒の場所に立地するカネイシでは、新鮮な魚介の恵みを生かした商品を加工・販売しています。
■手間暇かけた商品づくり
カネイシでは、イカの魚醤である「いしり」、鯖で作る「こんか鯖」、「いかの塩辛」などを主に製造販売しています。
いかの塩辛は、目の前に広がる能登小木港産の「船凍イカ」を材料として作っています。いしりやこんか鯖は、どちらもじっくり時間をかけて。こんか鯖は、まず鯖の頭とワタを取り、洗浄して塩につけます。そこに重石を置き2か月ほど寝かすと重石と塩の効果で塩汁が出てきます。そしてGWが明けた頃に新芽の山椒と米ぬかを一緒に再度漬けます。そこに塩汁を戻してやることが大切なポイントです。
いしりはイカと大量の塩で仕込みます。仕込みが終わった後の真夏に発酵がぐんとすすむので、暑い中の作業が必要になります。これがとても大変な作業です。仕込みをして、熟成期間を経て完成を待つことで、味わい深い発酵食品が出来上がります。「いしり」も「こんか鯖」 のどちらも2回の梅雨を超えるとしっかりとした味になると新谷さんは考えています。少なくても完成まで2年以上かかることになります。
さらに、いしりは熟成が完了した後、最後に火入れを行うことで、お客様に一定の味で楽しんでいただけるように工夫しています。これらの商品は、完成までとても時間がかかるのです。
■全国から注文が来る「いしり」
カネイシが作る商品は、昔は能登を中心に消費されていました。こんか鯖は、地元で消費されるもの以外にも、漁師が漁に出かける際に船に積んでいました。しかし今では、漁に出る際にこんか鯖をのせて出かけることはほとんどなくなっているとか。
ですが、そんな時代の中でも良い変化もあります。少し前は地元の方々が消費する量を見越して、この地域だけで消費できる量を作っていましたが、インターネットが普及したことで、近年ネット販売が伸びてきたのです。「いしり」が調味料として注目され、それに伴い「いしり」の知名度も一気にあがってきたので、全国からの注文も増えてきました。とくに「いしり」を食す需要が増えてきているということは嬉しいことでもあり、大きな変化ではないでしょうか。
いしり、いしる、よしる等、同じものなのですが、呼び方はいろいろあります。
「能登は集落のつながりがとても強いので、その中で呼び方がどんどん変わっていったという話もありますが、これらも諸説ありますね。」と、新谷さん。カネイシではイカを原料にしていますが、呼び方だけでなく、原料も地域によってさまざまです。イワシ、サバ、メギスなどそれぞれの漁港でたくさんとれたものを保存するために、魚醤がつくられるようになったのでしょう。
■家業を継ぐことで守られる文化
新谷さんは能登に帰ってくる前、食品メーカーの営業として働いていました。長男ですから、いつかは家業のカネイシを継がなければと思っていたそうです。その時がきて、能登へ戻ると決めたとき、それまで培ってきた営業のスキルも生かし、マーケットのニーズを把握しながらアプローチを行うことをしてきました。食品メーカーで働いていたときに身につけたスキルは、しっかりと役立っているようですね。
奥能登の中ではいち早くホームページを作りました。最初は、初心者が作ったようなホームページでしたが、そこから徐々にアップデートし、最近では、SNSも駆使しています。また、より商品を身近に感じてもらうためにレシピブックを作成したりと、できることを少しずつやっています。
カネイシでは「いしりポン酢」という新しい商品も開発しました。いしり初心者の方や、いしりが少し苦手な方でも楽しんでもらえるように、社員一丸となって開発した商品です。事業者がアイディアを形にすることによって、なじみの薄かった発酵食が身近なものになり、能登の食文化が現代にも受け継がれているのです。
■カネイシさんにお話しを伺って
いしりは、この能登ではるか昔から使われていた調味料です。そのいしりがこの近年、とても注目されてきています。カネイシさんでは、それらの魅力を少しでも身近に、使いやすくそしてわかりやすく届ける為に、 商品を作るだけではなく情報の発信にも力を入れています。
また現状に満足せず、さらに新しい商品を生み出したりと、能登の食文化を次の時代につなげていこうとする意欲が感じられました。作り方は昔から変わっていないものも、時代の流れの中で起こる変化にも柔軟に対応することで、暮らしの中に取り入れられていく可能性を伺うことができました。
店舗情報
名称 | 有限会社カネイシ |
住所 | 石川県鳳珠郡能登町小木18-6 |
TEL | 0768-74-0410 |
URL | https://kaneishi.com/ |