ミシュランシェフが惚れ込んだ里山里海の旨味「いしり」|「villa della pace」平田明珠さん【七尾市】

東京のイタリア料理店で働いていた平田明珠さんは、能登の食材に惚れ込み、5年前に移住してご自身のお店「villa della pace (ヴィラ・デラ・パーチェ)」を開きました。お店を運営しながら、本当に気に入った土地を探し続け、七尾湾を望む静かで美しい地に一年前に移転。イタリアンと美味しいワインのマリアージュを楽しんでほしいと、宿泊施設を併設したオーベルジュをリニューアルオープンしました。

■ 使いきれない食材を発酵食に

能登に来てから、料理に使う発酵食品などの保存食をよく作るようになったという平田さん。
現在作っている発酵食品は、いしり、柚子なんば、お酢など。お酢は柿酢の他、南瓜、ぶどう、トマト、メロン、桃など様々な野菜や果物から作っています。

「発酵させるためだけに何かを仕入れるってことはないですね。たくさん手に入ったものを発酵させています。やっぱり旬になると食材が多く集まってくるんですよね。でもその食材もすべて提供することは難しく、残ってしまうものなどから発酵食品を作っています」

お酢は農家さんたちが処理しきれなかった食材から作ったり、春には鰯をたくさんいただくので、すぐに食べきれない分はアンチョビにして、捌いた後のザン(魚の骨、内臓など)はいしりにしたりと、少しでも無駄にしないようにしています。

南瓜、桃、りんごなどの酢は、その食材自身が持っている菌だけで作れるのだそう。それだけでは作れないお酢の場合は、柿酢を作る時にできるマザーと呼ばれる菌の素を使います。柿酢は、柿の状態や熟し方で出来上がりも変わるので、瓶何本分も作って、その中で成功したものを種にして使います。

■ いしりで料理の素材を活かせるように

いしりを知ったのは東京にいたときに、能登の友人から送ってもらったのがきっかけでした。
イタリアでも魚醤(コラトゥーラ)を使って料理をする文化があるので、料理にいしりを使うことには抵抗はなかったそう。

「いしりに出会って旨味を足すのに、能登のものだけで料理が完結しやすくなったので、使える食材の幅がかなり広がったと思います。より素材にフォーカスできるようになりました。山菜やきのこなどには以前はチーズを足したりしてましたが、いしりだけあれば、旨味も出せるし、山菜の苦みが最初に来て、いしりのコクが後から追い上げてくる。いしりを使うことで食材の良さを表現しやすくなりました。春は山菜、夏は鮎、秋冬はきのこ、特にしいたけがいしりと合いますね」

いしり初心者に簡単なレシピを伺ってみると、きのこをバターでソテーして、いしりをちょっと垂らすだけで、旨味が倍増して、おいしい一品になるんだとか。いしりはかなり塩辛いので、少しずつ使ってみるのがポイント。

現在、いしりは「ふらっと」のベンさんが作ったものを使っているそうですが、平田さんご自身も昨年サヨリと鰯のいしりを仕込みました。
ベンさんからは「『3年は寝かせないとダメだよ』と言われたので。今は…まだ4か月ぐらいですね(笑)」
villa della pace お手製のいしり。2年半後が楽しみです。

■ 料理人としての思い

2018年のBarilla Pasta World Championship では日本代表に。
また2021年にはミシュランガイド北陸特別版にて、一つ星とグリーンスターを獲得。グリーンスターはフードロスの削減や、環境に配慮する生産者の支援など持続可能なガストロノミーを実践するレストランに贈られます。

「農家さんもどうしても、廃棄物が出るじゃないですか。それを全部とは言わないまでも、元々捨てられてしまってたものをこうして加工して保存して、おいしく食べられるようになるというのは嬉しいし、楽しいですよね。」

能登でとれる地産地消の食材にこだわったり、生産された農産物やいただきものを無駄にしたくないという思いが、グリーンスター獲得に繋がったのは想像に難くありません。

「僕は発酵させることが目的ではなく、美味しいものをつくることが目的なんですよね。」

発酵はあくまで手段。手間と熟成時間が更においしさを引き出してくれるのだと、改めて教えていただきました。

店舗情報

名称Villa della Pace (ヴィラ・デラ・パーチェ)
住所石川県七尾市中島町塩津乙は部26-1
TEL0767-88-9017
URLhttp://villadellapace-nanao.com/

能登の醸しびと