90歳じいちゃんが作る魚の漬物「こんかいわし」。美味しさのヒミツとは?!|新谷 幸昇さん【珠洲市】

能登では、昔から「こんか」と「塩」を使って作る「こんか漬け」という食文化があります。こんかとは、方言で米糠のこと。米糠は玄米を精米したときの副産物で栄養価も多く含まれていて、ぬか漬けにも使われています。
こんか漬けはさまざまな魚で作られますが、その中でも鰯を使って漬けた「こんかいわし」を作り続けている 新谷幸昇さんご夫婦に、こんかいわしの魅力を教えていただきました。

■ 一度食べたらまた食べたくなる

イベント出店などで人気の新谷さんお手製のこんかいわし。
一度買った方は「おいしい!」と言って、次のイベントでまた買っていってくれるのだそうです。
5、6回イベントがある年は、20㎏樽で5~6個も仕込む時も。

お店をやっていたわけでもない新谷さんが、なぜこんかいわしを作って、イベントで売るまでになったのでしょうか。

新谷さんは昔からこんかいわしに親しんできたそうですが、ある時能登町の宇出津の石川県水産総合センターのご友人に「今度、旨いこんかいわしを食べさせてやる」と言われて、食べたら美味しくてびっくりしたのだそう。
それが始まりで、作り方を教えてもらい、ご自分でも作るようになりました。

■ 美味しさの秘訣は二度漬け

美味しい理由を伺うと、通常は一度しか漬けないこんかいわしを二回漬けるのだと、新谷さんが作り方を教えてくださいました。

「鮮度のいいやつ(魚)をばちっと30%の塩で漬けて、少なくとも一週間から10日経ったものを漬け直すんですね。二回目にはこんかと糀少しと唐辛子、山椒の葉を入れて、漬け直すんです。重石をしっかりして、漬け汁をなみなみに入れる。一日、二日経つと汁が減ってしまうので、必ず漬け汁を足していく。そうしないと、発酵がうまくいかんということになるわけなんです。」

他に大切なことは、魚の鮮度。頭や内臓を取る時間も惜しんで、すぐに塩漬けをします。
「やっぱり鮮度が大事ですから、すぐ塩につけて。下漬けしたものの頭を取っていく。そうすれば、鮮度を保ったまま漬けられる」
その後、二度漬けする前に頭を取り、こんかなどを入れて本漬けをするのだそうです。

春に鰯が捕れるので春に漬けて、梅雨が過ぎて8月ぐらいになったら食べられます。

鰯があまり捕れないときには、シイラや鯖、鰆(サワラ)、トビウオで作ったこともありました。魚が捕れる時期はそれぞれ違うけれど、どの魚で作る場合も必ず梅雨が明けるまでは漬けておく必要があるのだそう。

いろいろな魚で作ってみたけれど、「やっぱり鰯は最高ですね。これが最高。おいしい。甘みがあります」。
奥さまが仰るように、お二人にとって、鰯のこんか漬けが最も美味しいことから、こんかいわしにこだわって作っていらっしゃいます。

■ おすすめの食べ方

鰯がたくさん捕れる時期に仕込む保存食なので、長期保存がききます。この日いただいたものも2~3年ものでした。


こんか漬けを知らない人が食べようとすると普通に一匹食べたくなりますが、そのまま食べると非常に塩辛いおかずなので、少しずついただきます。

「昔は囲炉裏で焼いて食べてましたね。灰がかからないように、ビワなどの葉っぱにこんかいわしを乗せて焼く。焼きながらご飯を囲炉裏で囲って食べた。それが思い出。刻んで酢をかけて、ちょっとずつ酒の肴にするのが美味しい」
今でも、新谷さんは焼いたり、酢をかけて食べるのが好きなんだそう。

奥さまいわく、菜っ葉などの野菜にも合うとのこと。
「冬は大根の千切りしたものに、こんかいわしを一匹か二匹入れて、お砂糖をちょっと加えるぐらいで美味しいんです。そのうち身もほぐれてくるから。これが何とも言えない味ですね~」

「最近は鍋やけんちん汁みたいのに入れたり。いしるの代わりに使ったり。ぶつ切りにして酢をかけて、お刺身と一緒に食べるとか。それも美味しいです」

■ 新谷幸昇さんご夫婦にお話しを伺って

新谷さんご夫婦にとって、こんかいわしを仕込むことは生活の一部であり、長い間楽しんでいる食のひとつです。

「私はお手伝いするぐらいで、今でもわかりません。お魚の仕入れから、塩加減まで、みんな父ちゃんがして。私は糀かけたりとか」と優しく笑いながら話してくだった奥さまの言葉から、おふたりで仲良くこんかいわしを漬けていらっしゃる姿が思い浮かびました。

90歳になられても、元気にはきはきとお話してくださる新谷さんの若さの秘密は、美味しいこんかいわしと、イベントで沢山の人に食べてもらいたいという思いからかもしれません。

能登の醸しびと