酒蔵女将がばあちゃんに教わる郷土の味「大根ずし」|「数馬酒造」しほりさん【能登町】

能登の地酒「竹葉」で知られる老舗酒蔵の「数馬酒造」。
蔵元5代目の数馬嘉一郎さんに嫁いだしほりさんは、国際唎酒師・食育インストラクター・発酵食スペシャリストを取得している、勉強熱心な若女将さんです。

今回は数馬酒造の従業員でもある人生の先輩に、初めて大根ずしの作り方を習いました。
発酵のひとつである日本酒に携わる、しほりさんの発酵食に対する思いは…

■手軽に作れて、サラダ感覚の大根ずし

今回教えてもらったのをきっかけに思ったのは、いつ食べたら良いかわからない人もいるかもしれないけれど、サラダ感覚で気軽に食べられること、そして思ったよりも簡単に作れるということ。
この後2回ほど作ってみたそうですが、家族にも好評だったそうです。

「お姉さまが市販の糀を使っていることも意外だったし、大根ずし用に酢〆めされている鯖がスーパーで売られているのにも驚いたけど、こういう商品をスーパーで提供してくれているのもありがたいですよね。鯖を最初から準備しないと大変だけど、もっと簡単にできるんだというのが気づきでした」

数馬酒造のある宇出津は、あばれ祭りで有名な町。お祭りの時に友人や親戚を自宅に招いてご馳走でもてなすヨバレという風習がありますが、最近はオードブルを買って準備する家庭も多くなっています。
「発酵食などの伝統料理はヨバレでも継承されていたことだと思うのですが、簡単になってしまっていますよね。本当なら煮しめを大きな鍋で作るとかやるべきだと思うんですけど… オードブルがあってもいいのですが、一部の料理は作るなどしていきたいなと思います」

■ 本流を受け継ぎながらも、時代に合わせ変化させていく

数馬酒造の経営理念は「能登を醸す」。そして、キーワードのひとつとして「食の時を楽しくする 竹葉」を掲げています。地域のもので、地域の食事に寄りそう酒を作っていきたいという思いで、食材特化シリーズも作っています。
能登牛の濃厚な味わいに合うように酸味を引き立てた「能登牛純米」や、日本有数のイカ水揚げ量を誇る同じく能登町・小木のイカに合う「いか純米」など現在5種類ものラインナップとなっています。

「お酒も再解釈が今始まっていると思っていて、低アルコールと微発泡性のものが新しいジャンルとして出てきているんです。これは単なるトレンドではなくて、現代食に対しての日本酒のニーズなんだなと思ったんですね。本流がありながらも、時代にフィットしていく、変わっていく部分が必要だということは、一生産者として忘れてはいけないことかなと思っています」

大根ずしも鯖ではなく鮭や鰊を使うなど、それぞれ地域や家庭によって手に入れやすいものが使われていたりアレンジがされています。時代のニーズに合うように、続けていきやすいように変わることも大事だと教えてくれました。

近江さんが高校生に教えているかぶらずしも鮭を使っている

■ 発酵食を次世代に繋いでいく当事者として

しほりさんは能登の穴水町のご出身ですが、お祖母さまは「やまんば能登を喰らう」という本も出されている、地元では有名な山菜に詳しい方でした。その影響で、昔から体調が悪くなるとご自身でも大根蜂蜜や梅醤番茶を作っていたそうです。

そのような家庭で育ってきたので、お子さんたちにも食に関することを伝えるときには、大人たちが楽しんでいる様子を見せることを、とても大事にしているとのこと。
味噌なども一緒に作って「自分で食べるものをこういう風に作るんだよ」と見せるようにしています。

「発酵食が廃れてしまうかもしれないという危機感はすごくあります。私が繋いでいく当事者なんだという自覚は大事ですね。このままだとヨバレもオードブルをとって終わりで、なれずしなどがなくなってしまうかもしれない。正しい危機感を持って、自分が当事者であるということ。次世代に繋ぐ最前線に立っているということを自覚したいなと思います」

穏やかで優しさが垣間見えるしほりさんですが、ひとりの母親として、そして数馬酒造の若女将として、発酵食を次の世代に伝えていくという力強さが印象的でした。

店舗情報

名称数馬酒造株式会社
住所石川県鳳珠郡能登町宇出津ヘ-36
TEL0768-62-1200
URLhttps://chikuha.co.jp/

能登の醸しびと